実家から帰る電車の中で、採点が始まる前に
たとえば、日曜の夕方。実家から帰る電車に座った瞬間、ため息が出る。いたのは4時間ほどで、仕事の1日より疲れている。母の「だから言ったでしょう」は今日も3回、父からは頼んでもいない仕事の進め方の助言を聞いた。スマートフォンの設定を直し、昔の失敗を笑い話にされてうなずき、帰り際に「次はいつ来るの」と聞かれて曖昧に答えた。窓に映る顔を見て、こんなに疲れるのはおかしいのかな、と自分の採点が始まる。「子どもは親を選んで生まれてくる」「親との関係は魂の課題」「親を許さないと幸せになれない」と読んだことがあるなら、採点は夜まで続きます。
親といると疲れることと、魂の課題から逃げていることは、別の話です。帰りの電車に残っているのは採点の材料ではなく、種類を分けて書けるものです。同じ話や同じ注意を繰り返される。昔の役割に戻される。心配や頼みごとを自分の役目だと感じる。会う前から身構えている。4つの名前は編集部がつけたもので、どれも、親を許すか許さないかを決める前に書けます。
3つの言い方が渡してくる、期限のない宿題
3つの言い方には、期限のない宿題が付いています。選んだ意味が分かるまで。課題を終えるまで。許せるまで。期限が来ないので、帰りの電車で疲れている自分は、宿題をまだ終えていない人として採点されます。
人が親を選んで生まれてくるのか、親との関係が魂の課題なのか、許すことと幸せがつながっているのか。どれも、答えを出す材料をこの記事は持っていません。確かめられない説明は、そのままにしておきます。そのうえで、帰りの電車で書けるものが2つあります。今日いた時間の長さと、帰ると決めていた時刻。こちらは採点ではなく、記録です。
同じ話や同じ注意を、繰り返されるとき
「だから言ったでしょう」「もっとこうしたほうがいい」。親と成人した子のあいだで、何が緊張のもとになるかを調べた研究があります。バーディットらの研究(2009)は、米国フィラデルフィア周辺の158家族、474人(22〜49歳の子と、その母と父)に、相手とのあいだで緊張を感じる話題の強さを答えてもらいました。話題は、連絡の頻度、性格の違い、求めていない助言、過去の関係の問題、子育てといった「関係そのもの」の話題と、お金、家事、生活習慣、仕事や学業、健康といった「相手個人」の話題に分けられています。関係そのものの話題の緊張が強いほど、相手への親しみの実感は低く、親しみと嫌さが同時にある状態は強い、という関連がありました。
著者らは、親と成人した子のあいだに緊張があるのは普通のことだ、と前置きしています。米国の、両親が婚姻関係にある家族が多い調査で、著者ら自身が、関係がうまく回っていない家族は少なかったかもしれないと書いています。1つの時点の調査なので、緊張が関係の質を下げたのか、その逆かは分かりません。編集部の読み替えでは、繰り返される注意のうち、聞いていないのに進め方を直される形のものは、研究の言葉の「求めていない助言」に近いと読めます。「ちゃんと食べてるの」のような健康や暮らしぶりへの注意は、研究の分類では相手個人の話題で、同じ側には入りません。注意が正しいかどうかとは別に、今日で何回目かを数えることはできます。
昔の役割に、戻されるとき
実家の玄関を入ると、職場で部下を持つ人でも、子どもの席に座ってしまうことがあります。これは研究ではなく編集部の整理ですが、ここで混ざりやすいのは、親が昔の自分を見ていることと、自分がその役に戻っていることです。前者は親の側で起き、後者は玄関を入ったあとの自分の側で起きることがあります。選んでいるとは限らず、気づいたら座っていた、という人のほうが多いと編集部は見ています。バーディットらは、親と子で、その時期に必要なものがずれていることから緊張が生まれる、という仮説と結果が一致する、と書いています。親にとって子はまだ世話の相手で、子にとって自分はもう世話の相手ではない、というのは編集部の言い換えです。このずれは、どちらかが悪いという話ではありません。育ちがいまの自分をどこまで決めているかは育ちの影響は、どこまで決まっているのかで扱っていて、この節で見るのは、玄関を入ってからの数時間だけです。
役に戻っていた量は、帰りの電車で1つだけ書けます。「今日、黙ってうなずいた回数」。全部の役を降りる話ではなく、回数を知っている状態と知らない状態の違いです。その場で感じていない表情を作る手間そのものの疲れは、人間関係に疲れたのは波動が合わないからなのかに仕分けがあります。
心配や頼みごとを、自分の役目だと感じるとき
親の心配は、親の側にある気持ちです。それを聞いた瞬間に「安心させなければ」が始まり、心配が自分の側へ移ってくることがあります。ここでも、観察と引き受けは別のことです。親の心配が見えること自体は、欠点ではありません。見えたら自分が解消しなければならない、に変わる人もいて、そうなると、親と会う時間が、親の心配を減らす仕事の時間になります。
相手の側にあるものを相手に返す、という置き方は手放すと叶うは本当かの中身4に、頼まれて断れない形の深掘りは与えれば返ってくると信じて尽くしてきたのに疲れたのはなぜかにあります。この記事で数えるのは1つだけ、「今日、親の心配を減らすために自分が変えた予定」です。
会う前から、身構えているとき
帰省の前の晩、あるいは当日の朝、まだ何も言われていないのに肩が上がっている。ヒョンらの研究(2019)は、米国ニューヨーク市ブロンクスの25〜65歳の住民240人に、14日間、スマートフォンで1日7回の回答を求めました。起床時には「今日はどれくらいストレスの多い1日になると思うか」を0〜100で答え、日中の5回は、その時点までに起きたストレスの出来事を答えたあと、5×5のマス目に出た3つの赤い点の位置を覚えて8秒後に答える記憶の課題をしました。朝に見込んだストレスが高い日は、その日の記憶の課題の成績が低く、この関連は、実際に起きた出来事の影響を差し引いても残りました。前の晩に見込んだ翌日のストレスには、同じ関連はありませんでした。
帰省や親を調べた研究ではなく、身構えがなぜ成績を下げるのか、その仕組みは測っていません。編集部の読み替えでは、会う前の身構えは、会っている時間の外側で、記憶の成績が下がる形ですでに働いている可能性があると読めます。身構えを消す方法は、この研究からは出てきません。この記事が代わりに置くのは、身構えの中身のうち「いつ終わるか分からない」の部分だけを、先に決めておくことです。研究が確かめた形ではありません。
「疲れる」の中身を、4つに仕分ける
画面が狭い場合は、表を左右にスクロールできます。
| 中身 | 帰りの電車に残っているもの | 言えること | 次に会う前に決めておくこと |
|---|---|---|---|
| 同じ話や同じ注意を繰り返される | 「また言われた」の重さ | 求めていない助言の形をとる注意は、研究では関係そのものの話題で、その緊張は親しみの実感の低さと関連していた | 何回目かを、数だけ書くと決めておく |
| 昔の役割に戻される | 黙ってうなずいた分の重さ | 編集部の分け方。親と子で必要なものがずれる、という著者らの仮説と並べた | 黙ってうなずいた回数を1つ書く |
| 心配や頼みごとを自分の役目だと感じる | 片づけたのに終わっていない感じ | 研究ではなく、編集部の分け方 | 親の心配を減らすために変えた自分の予定を1つ書く |
| 会う前から身構えている | 会う前からあった重さ | 朝に見込んだストレスが高い日は、その日の記憶の課題の成績が低かった研究がある | 着く時刻と帰る時刻を先に決める |
右端の列は、親を変える方法でも、許すための手順でもなく、次に会う時間を自分の側から見るための目印です。出来事と受け取りを分けて書く形は事実と解釈を分ける方法にあります。
架空の例:帰る時刻を決めずに実家へ行っていた西村さん
編集部が作った架空の例です。実在の相談や、受講生の事例ではありません。
西村さんは月に1回、日曜に実家へ行きます。昼に着いて、帰る時刻は決めていません。「もう帰るの」と言われるのが苦手で、気づくと夕食まで残り、21時の電車に乗っています。母の「だから言ったでしょう」は毎回で、父からはスマートフォンの操作を頼まれ、帰り際に「次はいつ」と聞かれます。帰りの電車で、親を選んで生まれてきたのなら、こんなに疲れるのはおかしい、と自分を採点する夜が半年続きました。
西村さんが帰りの電車で書き出したのは、4つのうち「同じ注意」と「会う前の身構え」でした。次の帰省の3日前、母に「14時に着いて、17時の電車で帰る」と先に伝えました。当日、母の「だから言ったでしょう」はやはり3回で、父のスマートフォンも直し、17時の電車に乗りました。翌月は話が長引いて1本あとの電車になり、書いたのは延びた40分だけです。
今日できる1つの動作 次に会う長さと、帰る時刻を先に決める
- 次に親と会う予定を1つ選ぶ。帰省でも、親が来る日でも、長い電話でもかまいません。
- 着く時刻と帰る時刻を、今日のうちに決めて書く。「14時に着いて、17時の電車」のように、時刻で書きます。長さは自分で決めます。短くする話ではありません。
- 帰る時刻を先に親へ伝えるかどうかを決め、伝えるなら文を1つ用意する。当日の「もう帰るの」に、その場で答えを探さなくてすみます。場面と言葉を前もって結ぶ書き方はIf-Thenプランの作り方にあります。
- 帰りの電車で、4つのうち多かったものを1つ書く。決めた時刻に帰れなかった日は、延びた分の時間だけを書きます。
会う長さを自分で決めることは、距離を置くことでも、縁を切ることでもありません。4時間を4時間のまま、終わりの時刻を自分が知っている状態で会う、という動作です。
親からの暴力や暴言、お金の無心、支配があるとき
殴られる、人格を否定する言葉を繰り返される、お金を要求され続ける、行動を監視される。こうした場合は、帰る時刻を決めるより先に、相談を優先してください。身の危険が迫っているときは110番へ。犯罪に当たるのか分からないけれど警察に相談したいことがあるときは、政府広報オンラインの案内では、警察相談専用電話「#9110」が、全国どこからでも、電話をかけた地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながる、とされています(受付時間は平日の日中が基本で都道府県警察により異なり、通話料は利用者負担です)。お金の要求や借金の肩代わり、契約のことで困っているときは、法テラス・サポートダイヤル(0570-078374。IP電話からは03-6745-5600、平日9時〜21時、土曜9時〜17時)が、法制度や相談先を無料で案内しています(通話料は自己負担で、個別の法律相談は行っていません)。親の介護の負担が重なっているときは、市町村が設置する地域包括支援センターが、高齢者に関する総合的な相談を受けています。この記事の動作は、対等に会える親との時間の長さを自分で決めるためのもので、被害を会う長さの工夫で乗り切るためのものではありません。
この記事が約束しないこと
このとおりにすれば親との関係が良くなる、疲れなくなる、とは書きません。「親を選んで生まれてきた」「魂の課題」「許さないと幸せになれない」が本当か嘘かも決めません。親を許すよう、感謝するよう、距離を置くよう、縁を切るよう勧めることも、親を何かの名前で呼ぶことも、あなたを性格や育ち、診断名や通俗的な呼び名で説明することもしません。引用した研究は、米国の親と成人した子のあいだで緊張になる話題と、朝に見込んだストレスとその日の記憶の課題の関係を扱ったもので、日本の帰省や、親といると疲れる人を調べたものではありません。
帰る時刻を決める動作のその先にある、受け取り方そのものの整え方は、脳質改善セミナーの内容を確認することができます。親子関係の相談を受ける内容ではありません。実家から帰ったあとの気分の落ち込みや眠れない状態が何日も続く、生活に支障が出ているときは、ひとりで抱え込まず、医療機関や公的な相談窓口への相談を優先してください。相談先は、厚生労働省のまもろうよ こころが、電話やSNSの窓口を案内しています。脳質改善は医療ではなく、この記事は診断や治療ではありません。
よくある質問
親を選んで生まれてきたのなら、親といて疲れるのはおかしいのでしょうか?
疲れるのは選んだ親に失礼なことだ、と感じる人もいます。ただ、選んだかどうかをこの記事で確かめることはできず、疲れがその証拠になるとも言えません。帰りの電車で書けるのは、いた時間の長さと、帰ると決めていた時刻と、4つのうちどれが残っていたかです。
親を許さないと幸せになれない、と聞きました。許せない自分が嫌になります。
許すことを、この記事は勧めません。許せないことを欠点としても扱いません。許すか許さないかを決める前に、疲れの中身が、同じ注意、昔の役割、心配の引き受け、身構えのどれだったかを1つ書くところまでが、この記事の範囲です。許せたら幸せになる、とも、許さなくてよい、とも書きません。
親と距離を置きたいのですが、罪悪感があります。距離を置くべきですか?
距離を置くか、今のまま会うかを、この記事は勧めません。書いているのは、次に会う時間の長さと帰る時刻を自分で決めることまでで、これは距離を置くことでも縁を切ることでもありません。罪悪感があること自体は、冷たさの証拠ではありません。暴力や暴言、お金の要求、監視がある場合は、罪悪感の整理より相談窓口を優先してください。
実家から帰ったあと、気分の落ち込みが何日も続きます。
落ち込みが続くことを、この記事の動作で扱おうとしないでください。この記事で引いた研究は、帰省のあとの気分を調べたものではなく、落ち込みが消える方法を示したものでもありません。眠れない、食事が入らない、仕事や家事に支障が出ている状態が続くときは、医療機関や公的な相談窓口への相談を優先してください。
次の日曜、17時の電車で
次に実家へ行く日曜。14時に着いて、17時の電車で帰ると、3日前に決めておく。「だから言ったでしょう」を今日も聞くかもしれないし、頼まれごとがあるかもしれない。決めた時刻に席を立てる日もあれば、立てない日もあります。どちらの日でも、帰りの電車で書けるのは、親を選んだかどうかの答えではなく、今日いた時間と、乗ると決めていた電車の時刻です。