この記事は医療情報ではありません。フラッシュバック、強い抑うつ、眠れない状態が続いているときは、 読み物で対処しようとする前に、医療機関や公的な相談窓口へご相談ください。

育ちは、今の自分にどれくらい影響している?

人前で意見を言えない。褒められると落ち着かない。そのたびに「育ちのせいだ」と思い、そう思う自分も嫌になる。答えはこうです。虐待などの逆境が大人になってからの健康に影響することは、研究で大きく報告されています。人のさまざまな特性の個人差には遺伝も大きく関わり、2つは切り離せません。ふつうの育てられ方が今の性格をどれくらい決めたかを示せる数字はありません。そして、大人になってからも性格の測定値が変わることは研究で報告されています。だから、原因を1つに決めず、いま動かせる場所を分けます。

逆境の影響を小さく見せることはしません。

子ども時代の虐待や家庭の機能不全にあたる経験は、あてはまるカテゴリの数が増えるほど、 成人期の健康リスク行動や疾患が増えるという段階的な関係が報告されています。 また、子ども時代のマルトリートメントは、小児期に発症する精神疾患の人口寄与リスクの約45%を占める、予防可能な最重要要因だとする総説もあります。

ただし、この2つの研究が扱っているのは、虐待や家庭の機能不全といった逆境です。ふつうの育てられ方が、人前で意見を言えないといった今の性格や悩みにどれくらい影響したかを示した研究ではありません。どちらも集団で関連を調べたもので、1人ずつの原因を特定するものでもありません。

つらかったと感じることは、気のせいでも、受け取り方の問題でもありません。

逆境の影響の大きさは、研究の側でも繰り返し確認されています。ここを否定する記事ではありません。

同時に、遺伝の影響も大きい

いっぽうで、人のさまざまな特性の個人差には、遺伝も大きく関わります。 2,748本の論文、17,804の形質、約1,456万組(一部重複を含む)の双生児を集めたメタ分析では、 17,804の形質すべてを平均した遺伝率が49%と報告されています。心理的な特性だけの数字ではありません。

つまり、環境の側にも遺伝の側にも、大きな数字が出ています。 どちらか一方だけを原因に決められる状態ではありません。

読み違えやすい点が2つあります。1つ目。遺伝率は、集団の中で人によって違う部分のうち、遺伝の違いで説明される分を推定した数字です。あなたの性格の49%が生まれつき決まっている、という意味ではありません。2つ目。同じ論文は、多くの形質で、双子が似ている理由は遺伝で説明でき、同じ家庭で育ったことによる共通の環境の大きな影響とは合わないと報告しています。これは親の影響がないという意味ではありません。同じ家で育っても、きょうだいが受け取る経験は1人ずつ違う、と読むのが編集部の読み替えです。

環境の影響

逆境の経験が増えるほど、成人期の指標が悪くなる段階的な関係

遺伝の影響

約1,456万組の双生児のメタ分析で、全形質の遺伝率は平均49%

どちらも○です。片方を立てるために、もう片方を消す必要はありません。

この2つは、切り離された箱ではありません

さらに、環境と遺伝は別々に足し算されるものではなく、互いに影響し合います。 持って生まれた性質が、どんな環境を引き寄せるかに関わり、 環境の側が、その性質の出方を変えていきます。

だから「親のせいか、自分のせいか」という問いには、そもそも答えが出ません。 この2つを分けて片方に決めようとすると、いま動かせる場所のほうが見えなくなります。

決まっていること

起きた出来事。過去の環境。持って生まれた性質

変えられない

いま動くところ

いまいる環境。今日つながる相手。次に選ぶ行動

変えられる

上の層を否定していません。ただ、手が届くのは下の層です。脳質改善が扱うのは、そちらです。

親のせいにしていいの?

りゅうはインタビューで「誰に見てほしくないですか」と聞かれ、こう答えています(2026年7月の本人回答。回答の3段落目と4段落目を引いています。動画のためのインタビューの回答なので「動画」とあります)。

また、人生を前へ進めるためには、自分にできることへ責任を持って動くほうが良いと思います。他人、環境、親、誰かのせいにし続けても、人生は変わりません。そのように、他責だけを続けたい人には見てほしくありません。
ただし、「自分は、すぐ人のせい、物のせい、自分以外の何かのせいにしてしまう」と自覚できている人は別です。そのような人には、この動画や僕の動画を見て、何かを変えてもらえたらすごくうれしいです。

りゅうが退けているのは、親のせいにし続けることです。つらかった経験を認めることではありません。被害や不当な扱いを、本人の責任にする言葉でもありません。親や環境を理由に動けずにいる自分を責めている人を、締め出す言葉でもありません。つらい経験からの回復は、1人の心がけで決まるものではなく、専門家の支援を受けながら進めてかまいません。

ここで分けるのは、問いの種類です。「何が起きたか」は過去の事実の問いです。「今日どうするか」は今の問いで、動かせるのは自分だけです。親のせいだと感じてよい。そのうえで、今日の1手は自分で選ぶ。この2つは両立します。親を許すかどうかも、この記事は決めません。今の親と会ったあとの疲れは親といると疲れるのは、魂の課題から逃げているからなのかで扱っています。

「毒親」は診断名ではありません

「毒親」も「アダルトチルドレン」も、日常のなかで使われてきた言葉で、医学的な診断名ではありません。 医学的な診断基準の一覧に、この項目はありません。

言葉としての価値はあります。うまく言えなかったものに名前がつくと、 自分だけの問題ではなかったと分かるからです。 ただ、名前がついたことと、原因が特定できたことは別です。

この記事がしないこと

親を裁く。原因を1つに決める。「刻まれたから変わらない」と結論づける

この記事がすること

影響の大きさを認めたうえで、いま動かせる場所がどこかを分ける

裁いても、諦めても、明日の行動は変わりません。分けるのは、そのためです。

大人になってから、性格は変えられる?

「子どもの頃に決まったから、もう変わらない」。研究はそう言っていません。Robertsらのメタ分析(2006)は、性格を同じ人で長く追った92のサンプルをまとめ、誠実性・情緒の安定・人の中で主導する傾向が、特に20〜40歳で高まる傾向を報告しています。中年期・老年期にも、6つの特性のうち4つで変化が見られました。集団の平均が年齢とともに動くという研究で、1人ずつが意図して変えられることを示したものではありません。

同じグループの別の分析(2017)は、介入の前後で性格の測定値を追った207の研究をまとめ、平均24週で測定値がはっきり変わったと報告しています。変化が大きかったのは情緒の安定でした。主に心理療法など臨床の介入を調べたもので、この記事の手順や、自分1人の工夫で同じ変化が出ることを示したものではなく、心理療法を勧める意味でもありません。持ち帰るのは、性格は大人になっても動くことがあるという1点です。

りゅうは「りゅうさんが日頃『この正論、一番イラっとする』というやつは何ですか?」と聞かれ、こう答えています(2026年7月の本人回答。問いの中のかぎかっこは『』に直し、問いの後ろの例と制作メモは省いています)。

才能があったから・天才だから こういうのは嫌い。生まれつきのものとか能力のせいにする言葉が嫌い。というかそもそも、生まれつきとか能力の差とかはトップまで上り詰めた人同士でやっと現れる差だと思ってる。ほとんどの場合、能力や才能の差ではなく、学びや行動や知識でひっくり返せるものばかり。

育ちについて語った言葉ではありません。りゅうが嫌うのは、才能や生まれつきを理由に、学びや行動の話をそこで終わらせてしまう言い方です。「育ちのせいだから」で今週の話を終わらせないために、この記事は次の表を置きます。

「育ちのせい」と感じる場面を、4つに分ける

「育ちのせい」という言葉の中には、過去の部分と今の部分が混ざっています。表は、よく聞く言葉を分けた編集部の整理です。原因を決める表ではありません。

画面が狭い場合は、表を左右にスクロールできます。

よく出る言葉過去の部分今くり返している部分今週確かめること
親に否定されて育ったから、自信がない言われた言葉頼まれごとを先に断る断った場面と、引き受けられた場面を1つずつ
家で本音を言えなかったから、今も言えない言えなかった家の空気会議で黙る、同意だけする黙った会議の人数と、話題
親と同じ口調で、子どもを怒ってしまう聞いて育った口調疲れた夜に同じ言葉が出る出た時刻と、その前の数時間
お金の話になると、急に怖くなる家で見たお金のもめごと明細や見積もりを開かない開かなかった書類を1つ書き出す

左から2列目は、変えられません。3列目は、今週も起きています。4列目は、その3列目に条件をつける問いです。

脳質改善が代わりに扱うこと

過去の環境は変えられません。だから、いまの環境のほうを見ます。自己肯定感のところで書いたのと同じで、 評価を直接動かそうとせず、起きる行動のほうを変えていきます。

  1. 出来事と解釈を分ける

    「親にこう言われた」と「だから自分には価値がない」を、同じ行に書かない
  2. いまの環境を1つ変える

    会う頻度、連絡の手段。過去ではなく、いま動かせるところを1つ選びます
  3. 反応が出た場面を記録する

    誰の前で、どの言葉で、何が起きたか。原因を探すのではなく、条件を数えます
  4. 距離の取り方を決めておく

    会う前に、切り上げる時間と方法を決めます。その場の判断に任せません
親を変えようとしていません。自分を直そうともしていません。条件のほうを動かしています。

3つ目の記録は、習慣が、同じ文脈でのくり返しで形づくられるという研究の整理に沿っています。くり返しの文脈は、昔の家ではなく今週の場面にあります。

架空の例:会議で意見を言えない松尾さん

編集部が作った架空の例です。実在の相談や、受講生の事例ではありません。

松尾さんは、会議で意見を求められると「特にありません」と答えてしまいます。家では「子どもは口を出さない」と言われて育ちました。会議のあと毎回「親のせいだ」と思い、そう思う自分も責めていました。

松尾さんは表の4列を、自分の言葉で埋めました。過去の部分は「口を出すなと言われた家」。今くり返している部分は「5人以上の会議で、最初に黙る」。ここで気づいたのは、2人の打ち合わせでは話せていることでした。今週確かめることは「5人以上の会議で、質問を1つだけ書いて持っていく」。親のことは、どの欄にも書き足していません。

いま強くつらいなら、ここは後回しでかまいません

フラッシュバックが起きる、眠れない日が続く、気分が長く落ち込んでいる。 そういうときは、育ちの整理より先に、専門家に相談してください。 このサイトは診断も治療もしませんし、その代わりにもなりません。

この記事は、表を埋めれば性格が変わる、とは書きません。引いた研究は、どれもこの記事の表や手順を確かめたものではありません。

科学で言えることと言えないことの線引きは、こちらにまとめています。

よくある質問

育ちの影響は、何割くらいあるのですか?

1人の性格のうち何割が育ちで決まった、と言える数字はありません。研究にある遺伝率49%は、集団の中の個人差を分けて推定した値で、1人ずつの内訳ではありません。この記事は割合を出さず、いま動かせる場所を分けます。

親のせいだと思うのは、甘えですか?

甘えとは書きません。つらかった経験を認めることと、今日の行動をどうするかは別の問いです。前者は認めてよく、後者は今の自分にしか動かせません。2つを同じ文にしないところから始めます。

大人になってから、性格は変わりますか?

変わることは研究で報告されています。20〜40歳ごろに誠実性や情緒の安定が高まる傾向をまとめた分析や、介入の前後で性格の測定値が変わった研究をまとめた分析があります。ただし、この記事の手順で性格が変わるとは示していません。

育ちのことを考えると苦しくなります。どうすればいいですか?

無理に振り返らなくてかまいません。この記事の手順は、昔を掘り返すものではなく、今週の場面を1つ書くものです。思い出すたびに強い苦しさが出る、眠れない日が続く場合は、医療機関や公的な相談窓口へご相談ください。

過去の欄は、埋めたら閉じていい

何が起きたかは、もう変わりません。今週の欄に書けるのは、次の会議と、次の夜のことです。