この記事は医療情報ではありません。強い不調や生活への支障が続いているときは、 繊細さの話として扱う前に、医療機関や公的な相談窓口へご相談ください。

HSPは診断名ではありません

HSPは、Highly Sensitive Person の頭文字です。もとになっているのは感覚処理感受性(Sensory-Processing Sensitivity)という、1997年に提唱された気質の指標で、 刺激をどれくらい細かく受け取り、どれくらい深く処理するかの個人差を測るものです。

大事なのは、これが病名でも診断名でもないことです。医学的な診断基準の一覧に、HSPという項目はありません。 研究のなかでは、環境感受性という、より広い枠組みの一部として扱われています。

HSPではないもの

病名。診断名。医療機関で下される判定。治療の対象

HSPであるもの

刺激をどれくらい受け取り、どう処理するかの個人差を指す、研究上の呼び名

ここを取り違えると「治す・治らない」の話になります。もともと治す対象として作られた言葉ではありません。

だから「直す」という言い方をしません

繊細さを直す、という言い方を、脳質改善では使いません。理由は2つあります。

1つは、直すという言葉が、いまの自分を欠陥として扱うからです。 直そうとするほど、直っていない自分を毎回確認することになります。 これは自己肯定感のところで書いたのと同じ構造です。

もう1つは、直せると言えるだけの根拠がないからです。感受性の高さは、良い環境からも悪い環境からも 影響を受けやすい性質として説明が試みられていますが、測り方の統一や、原因と結果の特定には 課題が残ると、研究のレビュー自身が書いています。

繊細さを消そうとするのではなく、受け取る量と、戻る時間のほうを設計する。

消えたかどうかは確かめられません。今日どれだけ刺激を浴びて、どれだけ戻れたかは数えられます。

脳の研究で分かっていること、分かっていないこと

他者の表情を見たときの脳活動に、感受性の高さと関連する差が報告されています。 ただしこれは参加者18人の研究です。人数の少ない研究から、日常で感じている生きづらさの全体を 説明できるわけではありません。

このサイトでは、こうした線引きを科学で言えること・言えないこととして まとめています。研究があること自体は本当でも、そこから「だからあなたはこうすればいい」までは、 たいてい距離があります。

言えること

感受性の個人差は測定できる。脳活動の差を報告した研究がある

言えないこと

その差が、日々の生きづらさの原因だと特定できる。だから直せる、という結論

研究があることと、生活の答えが出ていることは別です。ここを混ぜると、根拠のあるふりをした助言になります。

代わりに扱うのは、量と回復です

脳質改善が繊細さそのものを対象にしないなら、何を扱うのか。 受け取る刺激の量と、そこから戻るまでの時間です。どちらも、性格を変えなくても動かせます。

  1. 浴びた量を数える

    人と会った時間、音のある場所にいた時間、画面を見た時間。1日ぶんだけ書き出します
  2. 戻る時間を先に置く

    疲れてから休むのではなく、予定として先に確保します。埋まった隙間には入りません
  3. 1つだけ減らす

    全部を調整しようとせず、いちばん消耗している1つの場面を選んで、量を半分にします
  4. 戻れたかを記録する

    「疲れにくくなったか」ではなく「翌朝に戻れていたか」を見ます。数えられるほうを指標にします
繊細さを変えようとしていません。入ってくる量と、抜けるまでの時間を変えています。

「生きづらい」の原因を、繊細さに一本化しない

HSPという言葉が広まった良さは、自分だけがおかしいのではないと分かることでした。 いっぽうで、うまくいかないことの説明が全部そこに吸い込まれると、変えられる場所が見えなくなります。

職場の音がうるさいのは、環境の問題かもしれません。予定が詰まりすぎているのは、 断れていないからかもしれません。眠れていないなら、体のほうが先かもしれません。 原因を1つに決めないほうが、次に動かせる場所が残ります。