変わらないほうを選んでいる、という見方
変われないとき、多くの人は「決断できない自分」を責めます。 けれど実際に起きているのは、決断していないことではなく、今のままを選び続けているという決断です。何もしないことも選択で、 しかもそれは、いちばん労力の要らない選択肢として毎日そこにあります。
研究で言えること
1988年の研究は、意思決定の実験と、健康保険や年金の実際の選択データの両方で、 人が現状にとどまる側へ偏ることを示しました。重要なのは、その偏りが選択肢の数が増えるほど大きくなったことです。
選択肢が多いほど自由に見えますが、比べる手間が増えるほど、 比べずに済む道——つまり今のまま——が有利になります。迷いの量が、そのまま現状維持の力になるという構造です。
もう1つ効いているのが、行動の自動化です。行動は同じ文脈での反復によって自動的に起きやすくなり、 きっかけとなる状況が変わらなければ、同じ反応がまた立ち上がります。 意志で選び直しているのではなく、選ぶ前に始まっています。
だから、意志ではなく既定値を変える
既定値とは、何もしなかったときに起きることです。 意志は日によって上下しますが、既定値は毎日同じ働き方をします。 変えるなら、上下するほうではなく、いつも同じほうを変えます。
- いま何が既定値になっているかを書く
「夜、何もしなければスマホを見て寝る」。責める言葉を使わず、事実として1行で書きます。 - 比べる回数を減らす
毎回どれをやるか選んでいるなら、選ぶこと自体が現状維持を助けています。1つに固定します。 - 始めるほうを楽にし、やめるほうに手間を足す
道具を出しておく、開いておく。逆に、戻りたくない行動には一手間を挟みます。 - 見直す日を先に決める
いつまでも続けるのではなく、2週間後に判断する、と決めておきます。 期限がないものは、現状維持がいちばん強く働く場所です。
これは、変われない人が悪いという話ではない
現状維持へ偏るのは、特定の人の弱さではなく、選択の場面で広く観察されている傾向です。 だから「自分は意志が弱い」と結論する必要はありません。意志の量ではなく、選択の設計を疑うほうが、手が打てます。
同じ「戻ってしまう」現象を脳の防衛本能として説明する言い方については、「ホメオスタシスが変化を引き戻す」は本当かで 検討しました。続けられないことのほうを扱うなら続かない・三日坊主で終わるときを読んでください。