よく言われること

「人は変わろうとすると、ホメオスタシスが働いて元の自分へ引き戻される。だから3日で戻る」。 自己啓発の場でよく使われる説明です。戻ってしまった経験と結びつくので、納得しやすい言い方でもあります。

ホメオスタシスが指しているもの

ホメオスタシス(恒常性)は生理学の概念で、体温・血糖・体液の量や濃度など、 体内の環境を一定の範囲に保つはたらきを指します。暑ければ汗をかき、 血糖が下がればそれを上げる方向へ働く、という水準の話です。

ここには、収入・人間関係・生活の習慣といった人生の状態を元へ戻す機構は含まれていません。 体内環境の調節として確認されているものを、人生の変化にそのまま広げた説明であり、 その広げた部分を支持する資料は確認できていません。

この説明の何が困るのか

間違っているかどうかより、使ったあとに手が打てなくなることのほうが問題です。 「脳の防衛本能だから戻る」で説明が終わると、次にやることが「本能に打ち勝つ」しか残りません。 打ち勝つ方法は誰も持っていないので、結局は気合いの話に戻ります。

戻った理由を分けて見ると、変えられる場所が出てきます。

戻る理由を、分けて見る

  • 環境が変わっていない — 行動は同じ文脈での反復によって自動的に起きやすくなります。 きっかけになる状況(時間・場所・持ち物・一緒にいる人)がそのままなら、同じ反応がまた立ち上がります
  • 既定値がそのまま — 何もしなかったときに起きることを変えていないと、決断の場面ごとに現状のほうが有利になります。 選択の場面で現状にとどまる側へ偏る傾向は、意思決定の研究として報告されています。詳しくは現状維持バイアスと、変われなさに書きました
  • 変えようとした対象が広すぎる — 「生活を変える」「性格を変える」は、今日の行動が決まりません。 決まらないものは、実行されないまま日数だけが過ぎます
  • 疲労・睡眠不足・体調 — これは比喩ではなく身体の話です。ここが崩れているときに、手順の設計だけで押し切ろうとしません

脳質改善での扱い

変われない理由をホメオスタシスという語で説明することはしません。 代わりに、対象の広さ・環境・手順の順に見直します。 運営者本人も、意志の強さでどうにかしてきたのではなく、 強制力が働く形に環境と手順を組み替えることでしか続かなかった、と話しています。

「戻った」ことは失敗ではありません。戻ることを前提にして、 戻ったあとに再開できる条件を先に作るほうが続きます。その具体は続かない・三日坊主で終わるときにあります。

よく言われる主張を1件ずつ検討したものはよくある誤解の検証に、 語としての扱いは言葉の対訳表にあります。